歯科医院では、ご年配の患者の方々に、こんなことを言われることが多くあります。
「今の子供たちはいいねぇ、昔は痛くても無理やり削られて、トラウマになったものだよ」
さて、歯科医院が、そんなトラウマになるような場所だった頃から比較して
現在の状況は本当に良くなっているのでしょうか?
今回は、日本の歯科統計を読み解きながら、「人生100年」と呼ばれる時代に向けて、
みなさんの健康を守るための方法を考えていきましょう。
まずは、子供の統計から見ていきましょう。
ムシ歯の状況を調べるのによく使われるのが、DMFTと呼ばれる数値です。
D:ムシ歯
M:失った歯
F:治療した歯
の数を数えたものです。
我が国の12歳の子供たちの、DMFTの状況は、次のように推移しています。
歯科疾患実態調査
同様に、6歳児のdftも以下の通りです。
歯科疾患実態調査
高度経済成長期に、いわゆる「ムシ歯の洪水」と呼ばれるほど、ムシ歯が増えてしまいました。
この増加は、食生活の変化によって起きたことであり、砂糖の消費量を見ると、その理由が納得できます。
農林水産省 食料需給表
一時期は、1人あたり年間30kg近い砂糖を消費していましたが、ある時を境に消費量は減少し、それに伴うようにして、子供のムシ歯も減ってきたのです。
もちろん、子供のムシ歯が減ったのは、食生活の変化だけでなく、親御さんたちの知識の増加なども挙げられます。
歯科疾患実態調査
例えば、フッ素を塗った経験のある人も、増加しています。
これらのことから、子供のムシ歯は、確実に減少していることが分かりました。
さて、反対に、大人のムシ歯はどうでしょう?
歯科疾患実態調査
実は、40代を超え、50代、60代になるにつれて、昔に比べてムシ歯の数は増えてきているのです。
これは、「残っている歯の数が、昔より増えた」ということも一つの理由です。
しかし、これまで治療をして詰めてある金属の下でムシ歯になる「二次う蝕」や
歯ぐきが痩せて、歯の根がむき出しになり、そこからムシ歯になる「根面う蝕」など
実際にムシ歯が多くなっていることも事実です。
さて、平成生まれの方々は、統計上では平均寿命が100歳になると言われています。
その時、自分の歯が無い状態であれば、どうなるでしょうか。
生きる楽しみや、QOL(生活の質)に直結するのではないでしょうか。
歯科疾患実態調査
80歳で20本歯を残すことが、現在の我が国の目標となっており、徐々にその目標へと進んでいます。
しかし、残っている歯がムシ歯になるリスクが高くなっている今、改めて将来のことを考え直す必要があると言えます。
平成28年 IT 推進部データ分析推進グループ
また、ムシ歯とともに、あるいはそれ以上に、歯周病についても同様に考える必要があります。
これまで以上に、「予防」という考え方を持って、定期健診やクリーニングを受ける必要があると言えます。
万が一、ムシ歯になってしまった後も、「もう一度ムシ歯にならない」ということを念頭に置いて、治療方針を選択していく必要があります。
子供のムシ歯は、確かに減ってきています。
しかし最近では、「子供の頃、親御さんが予防に力を入れ、ムシ歯は無かった」という方が、
中学高校大学と自立してくると、自分では健診を受けず、結果20代で多くのムシ歯を作ってしまうケースを多く見かけます。
やはり長い人生で、何より大切になってくることは、「健康」です。
一度ムシ歯になると、決して元の状態には戻りません。
今後は、何か問題が起きる前から「予防」していくことが、これまで以上に重要だと言えます。